私達が訪れたその日、こぢんまりした工房では、パスタソースを仕込んでいるところでした。オリーブオイルの搾油は、数日前に終了したばかり、という時期でしたが、工房には搾ったばかりのオイルが、タンクに入れられて整然と並んでいました。彼らは手摘みしたオリーブを、風味が悪くならないうちに、低温搾り器でゆっくりと、酸化しないように搾ります。しかも、オリーブオイルは収穫時期によって風味が違うので、収穫「月」ごとに貯蔵タンクを分けて保管する念の入れようです。出荷する際には、均一な風味になるように、これらをブレンドしてボトル詰めするのだそうです。
海軍を退官した初代フィリッポ・ブルーナが、この地にオリーブ農園を開いて約200年。その後、ブルーナ家は、険しい、岩がちの山を少しずつ手で切り開き、現代まで大切に伝えてきました。その忍耐強い、商品への情熱は今も健在で、オリーブの実の塩水漬けなどは、平均して8ヶ月かけ、手作業でゆっくり漬け込みます。ジェノベーゼ・ペーストに使用するバジルなどの素材は、全て地物で揃えており、葉をすりつぶす段階から、すべて自社の工房で、手作業で行います。夏場の、ペーストを作る日は、朝から工房が採りたてのバジルで埋め尽くされちゃうんだよ、と、おもしろそうに話してくれます。品質を考えると、これらは全て機械化できないとヴィンセンツォさんは言っていました。

塩水漬け 1ヶ月漬けたものはやわらかいがえぐい。平均して8ヶ月(寒ければもっとかかる)戸外でゆっくり漬ける。実の色が、黄、緑、紫、黒など、ヴァリエーションに富んでいるのは、タジャスカ・オリーブの特徴
「山に行こう、見てもらうのが一番良い」。商品の説明をひととおり終えると、ヴィンセンツォさんは私達を、自身のオリーブ農園へ案内してくれました。自分の車はmacchina del contadino(農夫の車)だよ、びっくりしないでくれよ、と笑っていました。その言葉通り、車の後部荷台には、手作りらしいみかんが山積みになっていて、それを3つ、無造作につかんで私達にくれました。
ビアンコ社を出ると、Impero川沿いの国道を登っていきます。道すがらの道路標識には “Terra della Taggiascha”(タジャスカの大地) “Citta dell’olio”(オリーブオイルの町) “Strada dell’Olivo”(オリーブ街道)といったものが見られ、この地にとってオリーブオイルが欠かせない物であることをあらためて感じました。無論、オリーブは、イタリアの国中どこでも見られ、大切にされていますが、リグーリア州は、「1種類のオリーブしか育てていない」唯一の州です。ここでは歴史的に、オリーブといえばタジャスカ種のことであり、見渡す限り、山に植わっているオリーブの木は、そのほぼすべてがタジャスカなのだそうです。
小さな美しい村をいくつも通り過ぎ、そのひとつひとつを過ぎるたびに、空気が澄んで清々しくなっていくようです。20分も走った頃、いよいよ農園が近づくと、道は舗装もなくゴツゴツで、車一台がやっと入れる細い農道になります。目をつぶっても走れそうに慣れた手つきで、揺れる道を快調にとばすヴィンセンツォさんは、「Strada di campagna(田舎道)だけど、大丈夫かい」とか、「今年はこれから果実の木を植えようと思って」とうれしそうに話します。木が成長し、実をつけて、紅葉していく様子が大好き。オフィスは息子にまかせて自分は畑にいるほうが性に合っていると笑いながら話す、そんな素朴な人柄でした。

農園を楽しそうに案内するヴィンセンツォさん(1)

農園を楽しそうに案内するヴィンセンツォさん(2)