社長のリカルドさんに会ったとき、私たちはまず、この高価なパスタの生産を始めるに至った経緯を尋ねてみました。
顧客には品質と同時に、価格に対する要望もあります。フェリチェッティ社は、この相反する2つの条件を満たすため、常に最良のバランスを考え、生産技術を蓄積してきました。そんな中、三代目であり創業者の名前を受け継いだ、リカルドさんの父親ヴァレンティーノさんは常々、”Se io ho in mano delle materie prime valide, faccio la pasta piu buona del mondo.(もし、今この手に最高の材料を揃えることができれば、世界で一番うまいパスタを作ってみせるよ)”と、口癖のように話していたそうです。
「最高の材料で、最高のパスタを作る」。それは、多くの一流パスタ職人に共通の「夢」に違いありません。ですが、ひとたび最高の材料を探すとなると、それは時間も手間も、コストも膨大にかかる壮大な計画になってしまいます。フェリチェッティ社は、あえて、その不可能とも思える計画に挑戦することにしたのです。ヴァレンティーノさんの夢をかなえるべく、1996年「SELEZIONI」の開発プロジェクトはスタートしました。
最高の素材を求めて、彼らは世界中を探して回りました。「SELEZIONI」シリーズが目指したのは、次の三点でした。
そして選ばれた品種は、Granoduro(デュラム小麦)、Farro(スペルト小麦)、Kamut(カムット小麦)でした。これらの条件を全て満たす粉を、それぞれの品種に関して探し当て、契約農家から直接購入すること。フェリチェッティ社では、一般市場に出回っている商業向きの小麦粉ではなく、丁寧に作られた純粋種の麦を探して、世界中の生産元農家を独自に当たりました。
一見当たり前のように見えますが、これが大変な作業になりました。
小麦は、純粋なものであっても、細かく分類していくと、たくさんの種類があります。たとえば、Farro(スペルト小麦)なら、約260種類。比較的保護が進んでいて、ヴァリエーションの少ないKamut(カムット小麦)でも、約40種類。Granoduro(デュラム小麦)に至っては、数え切れない種類なのだそうで、結局、デュラム小麦に関しては、遠い北方の国で原種に近いものを見つけ、イタリア国内で契約農家に生産してもらうことにしました。
それらひとつひとつの種類について、生産農家を探し出し、サンプルを取り寄せ、成分分析して、秀逸な粉のみ約十数種類ずつに絞り込みます。しかも、分析の結果が思わしくなければ、翌年の麦の収穫まで待たなくてはなりません。この、小麦を選定する作業だけでも、5年以上かかっているのだそうです。
さらにそこからパスタを試作し、パスタにいちばん向いている、理想の味に仕上がる1種類を選ぶのですが、粉の挽き方によっても食感や香りに影響が出ますから、いかに膨大な作業になるか、ご想像いただけるかと思います。
こうして構想から約10年、プロジェクト開始から8年をかけ、「SELEZIONI」シリーズは大変な努力の末に完成しました。箱にも工夫がされており、袋はパスタができるだけパスタ以外のものに触れないように非常に高価な材料を使いつつ、その大きさも必要最小限のものになっています。素材から製造、包装にいたるまで全てにおいて妥協はしていません。また、「SELEZIONI」シリーズの生産量は、フェリチェッティ社全体のパスタ生産量の、わずか5パーセント程度にすぎません。にも関わらず、専用の生産ラインを確保して、大切に守り育てているのです。
これらの話を聞いているときに、私が「大変な情熱をかけて、臨まれたのですね」と感銘を込めて賛辞をおくると、リカルドさんはさらりと「当然の努力ですよ。良い構想・企画だったら、焦らず時間をかけて入念かつ万全な準備をするのは、当たり前のことです」と言っていました。この慎重さや丁寧さ、頑なさはフェリチェッティ家伝統なのでしょう。