それにしても山を登っていくスピードが速い。メモをとりつつ、カメラを回しながらの私たちは、息を切らせてついて行くので精一杯でした。小さな村を望める場所に出て「きれいな村ですね」と言うと、「昔は、もっともっとオリーブの木々と密着して、畑のすぐそばで生活を営んでいたんだよ。だんだん、世代を経るに連れて、村は広がって山の麓のほうまで下りてきたけどね。昔は馬や牛を使ってオイルを搾っていたものだよ。それも何百年も前の話じゃない、たった90~100年前の話だ」

歩くのが本当に速くてついて行くのでやっとでした
ヴェンチュリーノ社は新進気鋭の会社で、ここまで大きくなったのはヴァルターさんの手腕によるところが大きいと息子さんも言っていたので、私達は、やり手のビジネスマンという印象を持っていました。ところが、山々を案内してもらっているうちに彼も一人の職人であると、強く感じるようになりました。実に楽しそうに一本一本オリーブの木を解説してくれます。その表情はオフィスでの彼と明らかに違います。「この木は、ここを切ってあげると良い」「ここを切って、ちょっと広げると木が元気になる」「この木は樹齢100年くらいだが、思い切って真ん中から枝を落としてあげると良い」「この木はまだ植えて4年だけど、そろそろ剪定してやらなくちゃ」などなど、さながら講義です。実に色々な方法で手入れをしていました。その、ある意味大胆な手法は、ほかの農園では見たことが無いものも多くあります。

オリーブひとつひとつ手に取りながら、とても丁寧に色々教えてくれました

古い幹は朽ちてしまってますが、手入れをして再生させたオリーブ。オリーブの木の生命力には驚かされます
一つ疑問があったので率直に聞いてみました。「同じタジャスカ種のオリーブで、同じ谷、それこそ隣の畑で栽培していても味に違いがあるのはなぜなのでしょう?」ヴァルターさん曰く「いくつか要素があるが、一番違いが出るのは剪定などの手入れの仕方。例えば、この木の根元に、古い切り株が見えるだろう。オリーブの木も、何百年かたつと、木が弱り、実を付けなくなる。そうなった時には、脇から出た芽を生かし、古い幹は切り落としてやるんだ。一見手荒いようだけど、そうやって木を再生させることで、木は長生きする。だから、代々受け継がれてきたこの農園の木々は、樹齢にかかわらず、その根は、1000年くらい生きているものが多いんだ。美味しいオイルを作るには、木の一本、枝の一本、根の状態まで、丁寧に世話をしてあげるのが一番大事なのだよ」。彼は昔からこの根気のいる仕事をコツコツと続けてきたのでした。
また彼は、「自分は宣伝のたぐいをしたことは一度も無い。良い物を精魂込めて作り続けていたら、口コミでお客さんが広がりいつの間にか今の規模になった」と言っていました。それも特別なことは何もしておらず、彼の祖父母、あるいはもっと前から代々伝わるオリーブの手入れの方法やレシピを頑なに守り続け、かつ改良を加えてきただけなのだそうです。「今は輸出もしているけれど、僕がいつでもいちばん大切にしているのは、イタリア国内のお客さんに愛される商品を作り続けることだ」。どっしりとしたオリーブの木さながらに、地に足をつけた彼の頑固な仕事ぶりのうかがえる言葉です。
「いいかい、本当に美味しいものを丁寧に作っていけば、お客さんは必ず選んでくれる。君たちはまだ開業したばかりで大変だろうけれど、それを忘れずに、時間をかけてきちんと丁寧な仕事をして、お客さんに支持される店になってくれよ」そんな頼もしい言葉をかけてくれました。
別れ際、「また会おう。カトー」と言われました。気がつけば名前を呼ばれたのは初めてでした。オフィスに戻っていく大きな背中がとても印象的な訪問でした。

帰り際、ロゴのレリーフの前にて
温暖なディアネーゼ谷に囲まれたヴェンチュリーノ社の農園は、樹齢数百年のオリーブが生い茂っています。私達が訪れた夏のこの日は近所の工房で、バジルの仕込みの真っ最中でした。

| 社名 | フラントイオ・ヴェンチュリーノ |
| 所在地 | リグーリア州 インペリア県 |
| 従業員数 | 13人 |
| 創業年 | 1945年 |
| 主な生産物 | オリーブオイル、びん詰め食品 |